「英二、お疲れ様」

 都内でも結構大きな方に入るこの会場は、全国大会のすごさを表しているように思えた。 トイレに行くにしろ、自動販売機を探すにしろ、(確かに設備は整っている方なのだろうけれど)とても大変だ。 ましてや人を探すなんて、もっての外。 そんな中、探していたシルエットを一瞬にして見つけ出した私はかつてないほど幸運だったのだろう。

「ああ、。お疲れ…って言っても、俺試合出てないけどね」
「でも、応援してたでしょ?それも疲れるよ」
「そっか、は身をもって実証済みだもんね。地区大会からずっと」
「まぁね。私のありがたさ、わかった?」
「うんうん、すっごくわかった。いっつもありがとね、

 わしゃわしゃと英二の手のひらが私の髪の毛を乱すようにかき回した。
この行為は、彼のくせだった。

「もう、髪の毛ぐちゃぐちゃになったじゃない。英二のせい」
「あはは。ごめんって」
「本当にそう思ってるなら、明日の試合はかっこいい姿を見せてね」

 英二がうそをついている時の、私しかしらない彼のくせ。 私の髪の毛がぐしゃぐしゃになる度に見せる、英二の笑った顔は、いつも私の髪の毛と同じ状態だ。 私の胸を切なさでいっぱいにする、悪いくせだ。 でも、彼らしいとも思う。いつも笑顔を絶やさない彼故に、小さなサインしか出せないのだろう。 私や不二のようにいつも一緒にいる人にしかわからないような、小さなサインしか出せない、不器用なやつなんだ。 でも、英二は周りに心配させまいと本心を笑顔に隠せてしまうのだから、器用とも言えるかもしれない。 不器用で器用な嘘つき、だけどいいやつだと思う。

「あったりまえ!明日は今日の分までがんばっちゃうもんね」
「うん、期待してる」
「おう!んじゃ、今日は帰ろっか」

 そう言って私に手を差し伸べて笑った英二を見て、小さなサインを掬うことのできない私の無力さにまた切なくなった。 私はそんな内の切なさを押し込めて、彼の手をとって、微笑み返した。



対四天宝寺戦に英二が出ていない寂しさに、せつなげなものを一品こしらえてみたり。
そして、スポーツマンの心情というものに挑戦してみました。
レギュラーだといいつつも、やっぱり試合に出れないくやしさというものはあると思うのです。
そんなくやしさを、きっと英二は笑顔で隠しているのだろう、と。