窓の外はとてもすっきりと晴れているはずなのに、僕にはその日差しが届かない。 まるで、僕だけ闇の中に捕らわれてしまったかのように。 方向感覚まで麻痺してしまったみたいに、どこにいるのかもわからないほどに、 僕は捕らわれてしまったのかもしれない。 その君というまぶしい存在に。

「チハヤくん、こんなに天気もいいし外に散歩しに行かない?」

僕の顔を覗きこむようにそう言ったヒカリは、とても楽しげに微笑んでいた。 僕はそんなヒカリの表情を見ているだけで気持ちが軽くなるはずだったが、 なぜだか今日はどうにももやもやして止まない。 目の前にはヒカリがいて、彼女は微笑んでいて、それ以上に望むべき何かがあるわけでもないはずなのに。 もやもや、もやもやと、闇は僕の心の奥底にまで侵攻してくる。 そんな僕を不思議に思ったのだろう、ヒカリが心配そうに顔を覗き込んできた。 僕は慌ててヒカリに返答するために言葉を探った。

「え、ああ、うん。そうだね、行こうか」
「本当にいいの?チハヤくん、なんだか変だよ」

熱でもあるのではないかと心配したヒカリは、僕の額にその小さな手のひらを当てて僕の体温を確認していた。 ヒカリの手のひらから伝わるほどよい熱が心地良い。 異状はないと判断したヒカリが僕の額から離れようとする。 僕はヒカリの腕を瞬時に捕らえて、今度は僕の頬に彼女の手のひらを当てた。

「ヒカリの手、気持ちいいね」

僕の言葉にヒカリは赤面したが、すぐに彼女らしいやわらかな笑みを浮かべた。

「何かあったの?今日のチハヤくん、なんだか甘えんぼ」
「たまにはいいでしょ、こういうのも」
「そうだね、なんだかこんなめずらしいチハヤくんが見れて得した気分だよ」

ヒカリの熱が僕を侵略するようで、なんだかそれが妙に僕を落ち着かれた。 目を閉じてみれば、また闇が広がる。 けれど、それは僕を惑わすには至らなかった。 ヒカリの腕を放して、今度は僕の腕を彼女の腰に回す。 ヒカリは驚いたように一瞬ぴくりと反応したが、すぐに僕に身体を預けるように力を抜いた。

「…まったく、ヒカリには参ったよ」
「え、私何もしてないよ?」

僕はヒカリを抱きしめる力を強めた。

「ヒカリが好きすぎて狂いそうなんだ、責任とってくれるよね?」

そう、あまりに好きすぎて僕の中に閉じ込めておきたいくらいに。 そうすれば、他の誰かに君を奪われることだってない。 だけど、君は僕に捕らわれてくれない、まるで光のようにまっすぐ突き進む人。 ああ、せめて君が僕と共にいてくれるなら、 きっと僕は闇に惑うことなく、光に向かって進めるというのに。 だって、ほら、今僕はこんなにも幸せだ。




090315. 雨のちくもりのちいつかは晴れ // 不在証明
なんだか妙にエロくさい話になってしまったが、そんなつもりはまったくないんです。