つい最近まで優しく吹いていた春風はどこやら
眩しいくらいの日差しに、うるさいくらいのせみの鳴き声
ほら、もう立派な夏が舞い降りた
「・・・・暑い」
照りつける太陽を一睨みして、涼むためにも陰へと移動した。
自分の額から流れ落ちる汗をタオルで拭い、さらさらと吹く風に身を任せた。
「まぁ、今夏だしな。暑いのは当たり前なんじゃねー?」
「あんたは夏男だから平気でいられるのよ。一般人は滅入るの、普通」
「夏男で結構。俺は夏が好きだから暑い日も耐え切れるんだよ」
何の恥じらいも無く、けろっと言い放ったカイの顔は今の私には嫌味にしか思えなかった。
だいたい、夏が好きなだけで暑さが耐えれるなんて話聞いた事もない。
「・・・私は何事も程ほどが一番良いと思うわ」
「暑すぎず、寒すぎずってか?」
「うん、だって今日みたいに暑すぎるのも、寒すぎて凍えそうなのもいやだもの」
「んじゃ、クレアは春と秋が好きってことだよな?」
「ま、そういうことになるのかしらね」
私がそう答えてすぐ、彼は何かたくらんでいるのか挑戦的な笑みを見せてきた。
コレまでの経験上、こいつがこういう顔をした時にはろくな事を考えてない時だ。
そして、カイが閉ざしていた口を開いた。
「ふぅ〜ん。じゃ、クレアが愛する俺がいなくても大丈夫なわけだ。クレアは」
やっぱりコイツはろくな事を考え出さない。
泣くマネくさいことをやり始めたカイだけど、あいつの考えている事くらいお見通しだ。
どうせ私に言わせたいのだろう。“好き”だと。
「…自意識過剰だと思わない?自分で」
「いや、だって本当のことじゃん」
「普通、本当のことでも口には出さないものよ」
潮風が心地よい陰から、ふと思い出したかのように立ち上がり、一歩踏み出した。
ソレに続くようにしてカイも立ち上がる。
「じゃ、私は帰るわ」
帰路を歩き出して、少しの時間も経たないうちに。
自分の腕をつかまれたかと思うと、次の瞬間引っ張られ、バランスを崩した私はカイの腕の中。
「…ねぇ、暑苦しいことこの上ないんだけど?」
「いいじゃん。これも俺からの愛だと思って」
「良くそんな恥ずかしい事をずけずけといえるわね」
「だって、本当のことだもん」
「あぁ、そう」
素っ気なく返したけれど、顔はきっと笑ってる。
悔しいけれど、本当に不本意だけど、私は幸せだから。
「なぁ、俺のこと好き?」
確認するように問うたカイに、仕方がなく答えてやる。
「ええ。世界で一番好き。…暑さに負けないくらい」
「俺って愛されてんな。幸せ者じゃん」
満足そうに笑って、私を抱きしめていた腕の力をさらに強くして喜ぶもんだから。
「…やっぱり、自意識過剰男」
笑顔と共に嫌味をポツリと投げつけてやった。
夏の日差しは激しくなる一方で、優しい風もふりそそいだ。
2006. Dazzling light
調子に乗ってるくらいの夏男が一番輝かしいと思うのは私だけなのかしら。
|