聞こえるのは時計が時を刻む音。そして、本のページをめくる音のみだった。
なんせここは町の図書館で、ただでさえも誰も来ないそんな場所なのだからそれは当たり前だ。
その静けさに、少しほっとする自分がいる。
いちいち口うるさいじいさんだって、都会の忙しい風景だってなにもない。
自分の前に見えるのは、ぎっしりとつまった本棚と、金髪の少女の後姿。
その後姿に何度心を奪われた事だろう。
最初は目に入るだけだったその姿も、もはや自分にとってなくてはならない存在として目に映る。
(声、かけるべきだよな)
今日こそは、と何度も心の中で繰り返して、いつも行動に移せない。
自分のこういう内気なところは本当にいやだ。
あと10秒、いや30秒待って。そう心に言い聞かせ、ついには閉館時間となるのが常だった。
「グレイ、もう閉館時間よ」
マリーが自分に声をかければもうタイムリミット。
今日もダメだった。そう肩を落とすのもいつものことで。
本を元の場所に戻し、マリーと俺に小さく会釈するクレアさんの姿を見ることもいつものこと。
それに答えるようにして、帽子を深く被って会釈し返すのもいつもと変わりないことだった。
(今日もやっぱりダメか・・・)
少しため息をついて。また、自分の情けなさに頭を悩ませた。
こんな情けない姿をクリフやカイあたりに見られでもしたら、きっと笑われるに違いない。
いや、いっそ笑ってくれた方がまだいい。
きっとその方が次に話しかけるときのバネとなってくれるだろうから。
パタン。
読みかけの本を閉じて、本棚に乱暴に返した。
それを見ていたマリーが怒っていたけれど、そんなの気にしている余裕はない。
明日こそは、必ず。
そう心の中で呟いて。
そして、また俺はいつものように図書館へ足を運ぶことになるのだ。
2006. 抜け出せない迷路
初々しい彼の反応がとても大好きです。
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