窓の外はもうすでに暗くなっていて、星明りがポツリと見え始めている。
ご飯を食べた後、ちらちらと時計を気にしだすのが、もはや私の中で恒例となっていた。
(ああ、もうこんなことしなくてもよかったんだった)
そう思ったのは、テーブルを挟んだ真ん前にいるクリフの姿を見て。
出合った頃とはなんら変わっていないような気もしないでもない。
でも、今ちゃんと前を向いて歩いていることが彼の大きな進歩といえるだろう。
そんなクリフと私が結婚したのが、ほんの数日前のことだった。
「もう寝る?なんかぼーっとしてる」
気づけば目の前にはクリフの顔が、私の顔を覗き込んでいた。
よほどぼーっとしていたに違いない。
「ううん。ちょっと考え事してただけだから」
「そう?ならいいんだけど」
クリフの視線が、テレビに移った。テレビからは明日の天気予報が流れていた。
ニュースによれば、明日も夜空に星が見えるくらいの快晴。
洗濯物が干せる、と内心喜んで。もうすっかり奥さんになっている自分に笑った。
「ねぇ、クレア。さっき何考えてたの?」
「別に大したことじゃないの。気にしないで」
「そう言われると、ますます気になっちゃうんだけどな、僕」
カタン。椅子を引いたせいか、部屋に音が響いた。
自分の耳に聞こえるのは、未だテレビから流れているニュースの音。
そして、自分の目の前にいるクリフの声だけだった。
「結婚する前は、この時間でお別れだったでしょ?だから時間を見る癖がついちゃってて」
「もう結婚したんだから、そんなの気にしなくてもいいのに」
「うん。私もさっきそう思ったの」
ああ、自分は結婚したんだ。なんて実感が湧いてくるのは、こういう日常生活で。
例えば、朝一番に見るのがクリフになったこととか。
結婚したんだという実感が湧いてくるたびに、自分の胸が温かくなる。
幸せだなぁって思うのは、私だけだろうか。
そんなこと聞かなくても分かるとでも言うかのように。
自分の瞳に映るのは、嬉しそうに微笑むだんな様の姿。
もう時間なんて気にしなくて良いんだ、という喜びをかみしめて、私も微笑み返した。
2006. Small happiness
クリフはきっと小さな幸せをひとつひとつ大切にする人だと思う。
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